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てんざん:「……どうすれば私はお姉さまたちに、一人前と認めてもらえるのでしょうか?」 | ||
それが艦上攻撃機の鋼の乙女、てんざんの悩みだった。 | ||
両の掌を合わせて祈っても、しわとしわで不幸せ。 | ||
前向きに考えれば、幸せの語呂合わせになるのだが。 | ||
とかく後ろ向きになりがちな、少女なのである。しかし向上心は人一倍。 | ||
てんざん:「このままじゃ、いけないですぅ!」 | ||
一念発起したてんざんは、建設的な方向に考え始めた。 | ||
てんざん:「私が半人前だと思われてる理由は、やはりこれといった戦果を上げてないからです……ううう」 | ||
自分で言って、またも心に被弾。 | ||
しかしてんざんはくじけない。 | ||
てんざん:「戦果が上げられないのは、やはり我が身の非力ゆえでしょうか?」 | ||
けして姉たちに見劣りする能力ではないのだが、どうにも一歩及ばない。 | ||
その理由を考えて、てんざんはぽむと手を打った。 | ||
てんざん:「ならば、ぱわーあっぷです!」 | ||
とは言えさすがに、機体改造とかは一人では出来ない。 | ||
そうなると……手っ取り早いのは。 | ||
てんざん:「そうだ! まずはお姉さま達の装備を、真似してみましょう!」 | ||
てんざん:「と言う訳で、レイお姉さま! 『主翼切』を貸して下さい……っ!」 | ||
レ イ:「いきなり土下座とは……本気のようだな」 | ||
おかっぱ娘がうなじを見せて、頭を垂れている。 | ||
生真面目なレイは、その真摯な姿に心を打たれていた。 | ||
レ イ:「刀は武士の魂。人に貸すなど考えぬが、そこまで決意して頼むならば受け取るといい」 | ||
てんざん:「レイお姉さまっ!」 | ||
謹んで拝借しようと、両手を掲げる妹に。 | ||
レ イ:「そこに掛けてある、予備を使うがいい」 | ||
てんざん:「ありゃ」 | ||
やっぱり愛用の刀は、貸してくれないレイだった。 | ||
レ イ:「当たり前だ。不慣れな者に愛刀を任せられん。そして予備といえども、粗末に扱うな」 | ||
てんざん:「あ、はい! 肝に銘じますぅ! それでは主翼切をお借りしますね!」 | ||
深々と頭を下げて、ぱたぱたと刀を取りに行くてんざんを見つめながら。 | ||
レ イ:「……主翼切は、てんざんの手に余る。それを己が身を以て知るのが一番だろう」 | ||
レイはどこか達観した表情で、ぽつりと呟いた。 | ||
レ イ:「まずは抜刀。さっき教えたとおりに鯉口を切り、力まずに大きく全身で抜く」 | ||
てんざん:「はい、レイお姉さま!」 | ||
大和撫子のたしなみとして、てんざんも刀の扱いは一通り覚えている。 | ||
簡単におさらいしてから、いざ練習とばかりにてんざんは、レイと二人で空に舞いあがった。 | ||
レ イ:「空の上だと意識するな。常に自然体。平常心を心がけよ」 | ||
愛する妹を怪我させないよう、レイの指導も丁寧だ。 | ||
レ イ:「よし、てんざん。正眼に構え!」 | ||
てんざん:「はいですぅ……っ!」 | ||
言われたとおりに、ちゃきっと鍔を鳴らして。 | ||
まっすぐに抜き身の刀を構えるてんざん。 | ||
てんざん:「ふあああああ……これが主翼切……」 | ||
予備とはいえ、レイの愛刀であることは変わらず、蒼天の中に澄んだ刀身を露わにした日本刀は、周囲の青に溶け込んで、まるで透明な水晶のようだった。 | ||
しかし時おり強い陽光を反射して、まばゆく輝く。 | ||
主翼切の醸し出す、独特の雰囲気。 | ||
てんざん:「これはまさに必殺の刀気……なんだかいけそうな気がしてきました!」 | ||
レ イ:「……ふっ。昔の私を思い出す」 | ||
興奮する妹に懐かしんで、唇をほころばせるレイ。 | ||
レ イ:「よし、ではあの標的が相手だ。動かない的だが、決して油断するな」 | ||
レイが指し示すのは、気球から吊り下げられてる標的用の的だった。 | ||
海上に投下された浮きに繋がれており、ゆらゆらとてんざんを誘うように揺れている。 | ||
てんざん:「了解です!」 | ||
てんざんは刀を構えて、ゆっくりと相手を見据える。 | ||
手に汗握り、呼吸を整えて。 | ||
てんざん:「てんざん! いざ、参りますぅ!」 | ||
意を決して、飛び出した。 | ||
そして持ち前の高速飛行で、標的に急接近! | ||
的をしっかりと見すえる様は、さすが攻撃機の性が。 | ||
てんざん:「とぉりゃあああああっ!」 | ||
裂帛の気合いと共に、主翼切を上段に振り上げて。 | ||
てんざん:「あああ……あわわ、はわわわわ~~~っ!?」 | ||
てんざんは振りかぶった刀の重みに、バランスを崩してしまった。 | ||
これくらいの重さなら、いつも抱えてる爆弾よりも軽いくらいなのに! | ||
いつもと違う重心移動に、身体の平衡が保てない! | ||
レ イ:「やはりな。私やナナより重いてんざんは、バランスに問題がある」 | ||
てんざん:「ひぇっ、ふわわわ、わきゃ~~~~~っ!」 | ||
レ イ:「故に私のように、戦闘機動で主翼切を振るうというのは、てんざんには無理なのだ」 | ||
てんざん:「お姉さまっ、助けて下さい、レイお姉さま~っ!」 | ||
レ イ:「残念だが、私に救助機としての性能はない。だがてんざん、その体験は無駄ではないぞ」 | ||
てんざん:「そぉんなぁ~~~~っ! きゃーーーーっ!」 | ||
どぼーん。 | ||
盛大な水柱を立てて、てんざんは海に墜落したのだった。 | ||
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