第六回「スターリングラードの戦い」

　1942年8月から約６ヶ月にわたるドイツを中心とする枢軸軍とソ連軍とのスターリングラードを舞台に繰り広げられた戦い。

　1942年に入ってもドイツとソ連の戦いは続いていた。ドイツは想定していた期間で攻略できなかったことから、戦闘を継続するには早急に石油資源の確保が重要になった。
　ヒトラーは6月28日「青作戦」を発動しクルスク─ハリコフ間を結ぶ前線から南方軍集団を進撃させクルスクの東にあるヴォロネジを攻撃させた。ヴォロネジではソ連軍が南方からモスクワを攻めるものと思い、激しく抵抗した。

　いっぽうドイツ軍はクリミア半島も5月からせめており、7月初旬にはセヴァストポリ攻略を果たした。同時期に南方軍集団もクルスクの東にあるヴォロネジを落とした。ここでヒトラーは南方軍集団の編成をＡ集団とＢ集団の二つに分けて進軍させた。それぞれの集団には明確な目標があり、Ｂ集団にはヴォロネジからドン川一帯の守りをかため、ドネツ川とドン川の間ドネツ回廊をスターリングラードへ向かい突き進む。Ａ集団はロストフ北のドネツ川流域を確保し、南のカフカース地方へ向かいバクー油田などの資源確保へ向かうというものだった。

　準備期間は短いものの、順調に進みドイツ第４、６装甲軍はドネツ回廊をやすやすと突破した。この報告を受けてヒトラーは、北部はソ連軍の抵抗が弱いので第４装甲軍はＡ集団と南方を攻めるよう命令した。これにより先鋒を行く装甲軍がいなくなったＢ集団はパウルス率いる第８軍の歩兵部隊がのろのろと進むことになる。しかもこの間、ソ連軍にスターリングラードの防衛戦力を整える機会を与えてしまった。

　また、ソ連軍がスターリングラードに兵力を集中させロストフへ向け進軍した場合、カフカースを攻略中のドイツ軍が分断され退路を立たれる危険性が出てきた。ヒトラーはカフカースに向かっている第４装甲軍を再び北のＢ集団に加わるように引き戻し、スターリングラード攻略の急先鋒となるよう命じた。しかし、作戦に参加できず振り回された第４装甲軍が北部方面の作戦に参加し始めた８月では好機を逃す形になり、パウルスが同市になだれこんだ８月下旬にはソ連軍の兵力は増強されていた。さらにＡ集団はカフカース山脈付近で激しい抵抗に遭い、疲労と兵力不足で進軍が停止していた。

　1942年8月下旬、ドイツ軍司令官パウルスはヒトラーの命により、第４装甲軍と共にソ連南西部にある「スターリン」の名を冠した「スターリングラード」の占領命令を受ける。ドイツ軍は空からの爆撃と陸上から砲撃を行い、市街地へむけ占領行動を開始した。しかしソ連軍は爆撃で壊れたトラクター工場や兵器工場の壁などを修復して陣地とし、補強を行ったのである。

　瞬く間に、市街の要所にバリケードが完成し、ドイツ軍の進軍を阻んだ。この市街地戦ではドイツが得意な戦車部隊による機動戦が出来ないために、歩兵戦力に頼るしかなかった。9月7日にヴァシリー・チェイコフ将軍が市街地の東に流れるヴォルガ河方面の司令官に着任するとソ連軍は活気づき町の東を流れるヴォルガ河を渡り、次々と兵を列車輸送しており、市街地戦は泥沼の様相を呈していくのであった。

　それでもドイツ軍はなんとか市街地の約8割以上を占領し、市街地周辺を武装が貧弱なイタリア軍やルーマニア軍などに任せ、進軍を繰り返していた。1942年10月ソ連軍はルーマニア軍の外から包囲し市街地に向かって進軍。ルーマニア軍をドイツ軍から引き裂き、市街地に先行突出しているドイツ軍を孤立させる「ウラヌス作戦」を発動した。

　ソ連軍の反撃に遭い、スターリングラード周辺の枢軸軍は分断され、市街地のドイツ軍は完全に孤立してしまう。パウルスは包囲を強行突破して脱出する案をヒトラー総統に進言したが却下されてしまう。それは進言した際、ゲーリング国家元帥が物資空輸を確約したため、包囲されても耐え抜けるとヒトラーが判断したためだった。

　しかし、この時の輸送はもともと制空権と悪天候の問題で目標量に達せず、ドイツ軍は補給難を招いてしまう。その間ソ連軍は包囲している占領地の戦力を増強していく。その後、急遽ドン河方面のドイツ軍司令官になったマンシュタインは危機的状況にあるドイツ軍の救出作戦「冬の嵐作戦」を決行した。戦車約200両で編成された救出部隊はソ連軍と多少の戦闘を行いながら、合流地点までもう少しという地点までたどり着いた。しかし、救出に向かっている途中、ドン川周辺を守備していたイタリア軍がソ連軍の攻撃をうけて敗走。マンシュタインも包囲を受ける可能性があったので、退却せざるをえなかった。しかし、それでもヒトラーはスターリングラード攻略部隊の退却を許さなかった。

　その結果、市街地に取り残されたドイツ軍は飢えと弾薬の不足、冬の寒さなどで疲労していくのであった。そして遂に徐々に包囲を狭めていたソ連軍が、市街地まで到達したのである。ドイツ軍は作戦開始時点で約25万あった兵も約10万まで減少し、パウルス率いる攻略部隊は降伏することになる。スターリングラードで失った主力部隊の損失は大きく、その後に増強されたソ連軍によるハリコフ地方への攻勢に対し劣勢にたたされることになる。