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前回のアラム・ハルファでの戦いで、イギリス軍はドイツ軍を追い詰めながらも決定的な勝利を得ることはできなかった。 | ||
そのため、イギリス軍は次の作戦では勝利を確実のものとするために万全を期し、兵や兵器の増員を行っている。 | ||
そしてマチルダはマーリンからの要請で、エル・アラメインへ初めて派遣される鋼の乙女の出迎えにきていた。 | ||
マチルダ:「見当たりませんわねぇ」 | ||
次々と兵や兵器が下ろされていく中、マチルダはその鋼の乙女を探すが、それらしき人物は見当たらない。 | ||
その内、周囲の作業は終わり始め、次々と人が引き上げていく中、目的の鋼の乙女よりも先にマーリンが現れた。 | ||
マーリン:「遅くなってすみません、マチルダさん」 | ||
マチルダ:「ようやくいらしたわね」 | ||
マーリン:「例の娘はどこに?」 | ||
マチルダ:「それが、まだ見当たりませんのよ」 | ||
マーリン:「あ……」 | ||
マーリンが海へと視線をやり、小さな声を上げた。 | ||
マチルダ:「なんですの?」 | ||
マチルダもつられて目をやる。するとそこには、浮き輪をつけた女の子が必死に泳いでいた。 | ||
マチルダ:「……………あの子、じゃ、ありません、わよ、ね……?」 | ||
マーリン:「ど、どうなんでしょう……」 | ||
マチルダとマーリンが固まる中、少女は海から上がるときょろきょろと辺りを見回し、そして飛び跳ねるようにしてこちらへとやってきた。 | ||
???:「イギリス軍の方ですか?」 | ||
その言葉に、マチルダが無言で頭を抱え、マーリンが俯く。 | ||
さもありなん。少女はなんと、水着姿に浮き輪まで所持していたのだ。 | ||
戦力どころか、本人は遊ぶ気満々のようであった。 | ||
マチルダ:「あなた、なんなんですの? その格好」 | ||
???:「え? だって、地中海でしょ? 泳がないと意味がありません」 | ||
マチルダ:「今は戦時中でしてよ。遊ぶ暇などありません。早く戦闘服にお着替えなさい」 | ||
???:「はーい」 | ||
しぶしぶ、といった体で着替える少女。しかし、着替える速度は速い。 | ||
戦闘においては、作戦の集合時間などがもちろん決められており、それを守るのは必須。 | ||
つまりは、突然の作戦にも対応しなければならない。 | ||
そういう意味では着替えがすばやいというのは、一つの才能といえよう。 | ||
少女が着替え終わったところで、マチルダは咳払いを一つして、自己紹介に入った。 | ||
マチルダ:「わたくしはマチルダ。こちらにいるのはマーリンよ。これから一緒に戦う同士ということになるわね。よろしくね」 | ||
???:「はい、マチルダさん。ボクはシャーマンのシンです。よろしくお願いします」 | ||
シンがマチルダに軽く自己紹介をする。 | ||
シンは赴任したばかりでまだ元気がいい。最初の水着姿はいただけないが、礼儀もしっかりしているようだ。 | ||
マチルダは機嫌をよくし、おっとりと笑った。 | ||
マチルダ:「ようこそ、よくおいでになられましたわ」 | ||
シ ン:「ボクがきたからには、枢軸国なんて目じゃないよ!」 | ||
マチルダ:「あなた、お生まれは?」 | ||
シ ン:「U・S・A生まれの英国育ち」 | ||
シ ン:「みんなを助ける為に来たんだ。だからここはボクに任せてください!」 | ||
その台詞に、マチルダは目を細めて笑った。 | ||
マチルダ:「頼りにしているわよ」 | ||
マーリン:「…………」 | ||
マーリンは無言を通している。別に不機嫌だからではない。もともと無口な性分なのだ。 | ||
マチルダ:「さて、今回の作戦では我々は敵に見つからないように移動しなければなりません」 | ||
シ ン:「そうなんですか?」 | ||
マチルダ:「そうなのよ。そのためドイツ軍を倒すためのライトフット作戦というものを行います」 | ||
シ ン:「ライトフット作戦……」 | ||
マチルダ:「そうです。北側からの攻撃をドイツ軍にさとらせないため、はるか南に偽の補給所やパイプラインを作ります」 | ||
シ ン:「ふむふむ」 | ||
マチルダ:「そして敵軍に進軍がさしせまっていないことをアピール。さらに張りぼての戦車を使い、戦力は未だはるか南で整えているという状況を作り出します」 | ||
シ ン:「すごいですね、マチルダさん!! ボクにはそんな作戦、とても思いつきません……でも……」 | ||
マチルダ:「なぁに? 気づいたことがあったら、いくらでも言ってくれていいのよ?」 | ||
シ ン:「いくら南側に偽の補給所を作っても、北側を大部隊で動けばばれるんじゃないんですか?」 | ||
マチルダはにっこりと微笑んだ。 | ||
マチルダ:「そうはならないように、手は打ってありますわ」 | ||
どんっ、と目の前に大きなトラックの張りぼてを置く。 | ||
マチルダ:「戦車にはこれを使います。トラックに偽装して近づくのです」 | ||
シ ン:「本当にばれないんですか……?」 | ||
シンの疑いのまなざしに、マチルダは自信満々に頷いた。 | ||
マチルダ:「これから、あなたには一晩かけてトラックになりきってもらいます」 | ||
シ ン:「ええーっ!?」 | ||
マチルダ:「トラック役は、あなたにしかやれないわ」 | ||
シ ン:「は、はい」 | ||
マチルダ:「トラックはしゃべるものではありません!!」 | ||
シ ン:「は、はいっ」 | ||
マチルダ:「だから、トラックはしゃべりませんっ!! ガムテープを口に張ったほうがいいでしょうね。マーリン、用意してくれる?」 | ||
シ ン:「ええーっ!?」 | ||
マーリン:「そこまでするんですか?」 | ||
マーリンも目を剥いている。 | ||
マチルダ:「作戦とは、どこまでも完璧でなければなりません。シンには、トラックになりきってもらいます」 | ||
翌日、マチルダとシンはドイツ軍へ向けて出発する。 | ||
マーリン:「お気をつけて。マチルダさんも、シンも」 | ||
マチルダ:「ありがとう」 | ||
シ ン:「…………」 | ||
シンは答えない。完璧にトラックになりきっているのだ。 | ||
マチルダ:「ふふふっ。その調子ですよ、シン」 | ||
シ ン:「…………」 | ||
シンはどこまでも無言だった。 | ||
これでこの作戦は成功すると確信したマチルダは意気揚揚と出発する。だが。 | ||
マーリン:「あの……二人、力を注ぐ方向を間違えていると思うのは私だけでしょうか……?」 | ||
マーリンの不安をよそに、マチルダとシンはドイツ軍へと向けて北上した。 | ||
数日後、ドイツ軍の前には謎のトラックの一団が停車していた。 | ||
ミハエル:「何だ何だぁ? トラックトラックトラックトラック。何があったんだよ、一体」 | ||
ミハエル達は何事かとトラックを一台一台確認して回るが、怪しいところが見つからない。 | ||
ミハエルはシンに近づくも、完璧にトラックになりきっているシンは微動だにしない。 | ||
シンの完成度に思わず笑みがこぼれるマチルダは、飛び出すタイミングをはかりはじめる。 | ||
ミハエル:「……ん?」 | ||
しかし、ミハエルは怪しい一台を発見した。 | ||
ミハエル:「この縦巻きロール、どこかで見たことがあるなぁ」 | ||
それはマチルダの髪の毛であったが、何の疑問も覚えずに、とりあえずミハエルは縦ロールを引っ張った。 | ||
マチルダ:「痛っ!! 何をなさいますの!!」 | ||
思わず飛び出すマチルダに、ミハエルは全身の力が抜けるような感覚に陥りながら尋ねた。 | ||
ミハエル:「お前こそ、ナニをやってるんだナニを」 | ||
マチルダ:「こほん。よくこの偽装を見破りましたわね。全員、偽装解除!!」 | ||
トラックが次々とイギリス兵士へと変化する。突然の奇襲にドイツ軍は混乱する。 | ||
マチルダ:「予想通りですわ。ふふふふっ。おーほっほっほっ」 | ||
お得意の高笑いとともに、マチルダは命じた。 | ||
マチルダ:「全軍、攻撃開始!!」 | ||
マチルダ:「今度こそ、わたくしたちイギリス軍の勝利ですわね!」 | ||
マチルダは自信満々に叫ぶ。 | ||
マチルダ:「さらに確実に勝たせてもらうために、ニューフェイスを用意いたしましたのよ。シン、もうトラック役はよろしくてよ」 | ||
シ ン:「…………」 | ||
しかし、シンは役にのめりこんで、マチルダの声が耳に入らない。 | ||
マチルダ:「…………」 | ||
困り顔のマチルダと、呆れ顔のミハエル。 | ||
ミハエル:「大丈夫なのか? ニューフェイスとやらは」 | ||
マチルダ:「……こんなこと、敵に頼みたくはありませんが、軽く機銃でシンを撃ってくださいます?」 | ||
ミハエル:「もちろん敵だから攻撃するが、攻撃を頼まれるとは思わなかったなぁ」 | ||
さすがにノーガードの敵を撃つのは申し訳ないと思い、ミハエルは機銃を数発発射してシンを攻撃した。 | ||
シ ン:「いった――――いっ!!」 | ||
マチルダ:「シン、ここはもう戦場ですわよ」 | ||
シ ン:「うそっ!? 基地を出発してからの記憶がないよ、ボク!!」 | ||
ミハエル:「そこまで頑張ってトラック役をやってたのか……」 | ||
シ ン:「ところで、今ボクをつついたの誰!? すっごーく痛かったんだけど!!」 | ||
マチルダ:「そこにいる、ミハエルです」 | ||
ミハエル:「お前が頼んだんだろうがっ!!」 | ||
シ ン:「お前か―――――っ!! 絶対許さないぞ――――っ!!」 | ||
臨戦態勢に入るシン。 | ||
ミハエル:「お前も聞けよ、人の話を!!」 | ||
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