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レント:「弾薬の浪費が激しすぎる?」 | ||
司令官「そういうことだ。武器弾薬はキミたち鋼の乙女たちに優先的に補給されるよう手配はしているが、決して無尽蔵なわけではないからね」 | ||
その日、レントは司令官から相談を受けた。 | ||
最近鋼の乙女たちの間で弾薬の消費が激しく、軍上層部の一部で問題になっているのだという。 | ||
司令官「その原因を突き止め、浪費を食い止めるよう、何か対策を練ってもらいたいのだ」 | ||
レント:「了解した。確かにそれは由々しきことです。早急に対処します」 | ||
司令官「原因に心当たりはあるかい?」 | ||
レント:「十中八九、原因はエルでしょう」 | ||
司令官「どういういうことだい?」 | ||
レント:「私自身、以前から疑念は抱いていましたが、どうやらエルはトリガーハッピーに罹っているのではないかと」 | ||
司令官「トリガーハッピーというと……アレだね」 | ||
レント:「うむ。銃の引き金を引いて弾丸を乱射することに快楽を覚えて止まらなくなる症状です。本人は脳内麻薬たれ流し状態で至悦の状態に在るが、周りは大迷惑です。無駄弾も確かに増える」 | ||
司令官「……ふむ。しかし上層部に報告するにせよ、どの程度無駄弾が出てるのか等、詳しいデータが欲しいところだな。頼めるかな、レント君」 | ||
レント:「もちろんです。至急、戦場でのエルの行動を観察し、結果報告書を提出させます」 | ||
そうしてレントは、今度はミハエルを調査することになった。 | ||
司令官のお墨付きとは言え、仲間たちの行動を監視する内部監査の一種だ。自分の行動は仲間に、とりわけミハエルにはバレないように慎重に行動しなければならない。 | ||
そんなある日、ミハエルに出撃命令が下った。 | ||
レントには出撃命令は出なかったが、だからこそミハエルのトリガーハッピーぶりを観測するにはうってつけだと彼女は判断した。 | ||
そこで彼女は例によってこっそりと、ミハエルの後を尾行(つけ)ていくことにした。 | ||
ミハエル:「うっしゃぁぁぁっっっ! 連合軍のバカどもっ、かかってきやがれっ! まとめて片づけてやるぜぇぇぇっっっ!」 | ||
戦場に到着するや、ミハエルは後先考えずに敵部隊へと突入していった。 | ||
主砲と機銃をいきなり乱射しはじめ、たちまち敵機を蹴散らしはじめる。 | ||
レント:(な、なななな……あのバカ、なに考えて……いや、何も考えていないのか……) | ||
ミハエルの思い切りのよすぎる特攻ぶりに、レントは顎がカクンと落ちるくらい唖然となった。 | ||
ミハエル:「うりゃっうりゃっうりゃぁぁぁっっっ! どぉしたぁぁぁっ、まだまだイクぜぇっっっっ!」 | ||
ドッドッドッ! ガッガッガッ! ──と、ミハエルの乱射は止まらない。 | ||
レント:(いったい、どれだけ無駄弾撃ちやがってるかな、あのバカッ!) | ||
ギリギリ激しく歯ぎしりしながら、レントは後方から秘かにミハエルの狂態を観察している。 | ||
弾薬の一発一発にも経費がかかっているのだ。一発の値段は安くても、それが積み重なると洒落にならない額になる。 | ||
ミハエル:「うははははははぁぁぁっっっ! オレに近づくヤツは全殺しだぜぇっっっ! かかかかかかっっっ!!!」 | ||
あまりに狂乱じみた斉射っぷりに敵軍もさすがにひるんだか、しだいにミハエルから遠ざかっていく。 | ||
するとミハエルは遠ざかっていく敵機を追いかけまわしては、さらにズバズバ、ドゴドゴ主砲を撃ちまくり、機銃乱射を繰り返していく。 | ||
まさにトリガーハッピーの症状だ。否、むしろ狂戦士化(バーサーク)と呼ぶべきか。 | ||
レント:(……うわ、なんて幸せそうな表情してるんだ、あのバカ) | ||
だがとにもかくにも、弾薬の消費が異常に激しい理由は一目瞭然だった。 | ||
ミハエルのこの狂乱行動を可能な限り精緻に記録して基地に持って帰る。そしてミハエルの矯正プログラムを作成すればレントの任務は完了だ。 | ||
ミハエル:「うりゃうりゃうりゃうりゃぁぁぁっっっ! 逃げるんじゃねぇぇぇっっっ! てめぇらそれでも軍人かぁぁぁっっっ!」 | ||
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う敵軍を、ミハエルはひたすら乱射しながら追いかけまわしている。 | ||
レント:(……あと上層部への報告用に、一回の戦闘でのエルの弾薬の消費量と敵機への被弾率も記録しておかないとな……) | ||
刹那。 | ||
レント:「へ?」 | ||
凶悪な殺気を間近に覚え、レントは反射的に顔を上げた。 | ||
その瞬間、彼女の瞳に映ったのは、真正面から自分を狙うミハエルの主砲口。 | ||
ミハエル:「おらっおらっおらぁぁぁっっっ! 次、オレにぶっ倒されたいやつはどいつだぁぁぁっっっ!?」 | ||
ミハエルの観察にあまりに集中していたレントは、敵を追いかけ回すミハエルが偶然自分の方へ急速に接近してきていたことに、うっかり気づき損なった。 | ||
ミハエル:「おうらっっっ、そこかぁぁぁっっっ!!! 殺(や)りぃっっっ──!」 | ||
レント:「ほんげらべっ──!?」 | ||
ドォォォンッッ──! ドゴォォォッッッ──!!! | ||
顔面に激しい衝撃が貫き脳裏に火花が迸り──レントは目の前が真っ暗になった。 | ||
レント:「……んぁ……ここは……?」 | ||
意識を取り戻したレントの目に最初に映ったのは、蒼天の大空だった。 | ||
頭の中がズキズキ痛み、顔面がヒリヒリ痛み、耳奥にキーンと耳鳴りがうるさく響き渡っていた。 | ||
ミハエル:「お? やっと目が覚めたか」 | ||
ミハエルの声が近くで聞こえた。 | ||
レントはゆっくりと上半身を起こした。たちまち胃袋が裏返るような感覚が喉元に込み上げてきた。 | ||
レント:「うぷ」 | ||
レントはとっさに口元を手で押さえた。そのまま辺りを見まわすと、見慣れた基地風景が広がっている。 | ||
レントはすぐに自分がボロボロの状態なことに気づいた。撃墜されましたと全身で物語るような非道い恰好だ。 | ||
身体のあちこちがが軋むように痛い。 | ||
ミハエル:「──ったく。気絶したおまえをここまで運ぶの、すげぇ手間かかったぜ。あんま世話かけさせんなよな、レン」 | ||
レント:「………」 | ||
ミハエル:「つか、なんで出撃命令の出てないおまえが、あんな所にいたんだよ?」 | ||
レント:「……え? いや、それは……」 | ||
自分がミハエルの主砲に撃墜されたことを、レントはようやく思い出した。むろん自分がなぜあそこにいたのか、答えられるはずもない。 | ||
ミハエル:「まあ、理由はどうでもいいけどよ。戦場でのオレは動くモノは何でも撃つからな。戦闘中のオレに近づくと危険なことは常識中の常識だぞ。次からは気をつけろよ?」 | ||
レント:「……………………そうする」 | ||
貴様が勝手に近づいてきて撃ったんだろうが……と思わず反論したくなったが、なんとか抑える。 | ||
司令官に直訴して、ミハエルのトリガーハッピー調査は他の誰かに変わってもらおうと、レントは心に誓った。 | ||
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