をクリックすると、キャラクターの音声が再生されます。
(※Javascriptが無効になっている場合、をクリックしても音声は再生されません。)
エーリヒ:「司令、来たわよー」 | ||
司令官:「やあ、待っていたよ、エーリヒ君」 | ||
エーリヒ:「で、今日は何? くだらない用なら帰るからね」 | ||
司令室に呼ばれたエーリヒは、仏頂面して機嫌が悪そうだった。 | ||
相変わらずやる気をまったく感じさせない雰囲気だ。 | ||
司令官:「もちろん出撃の辞令に決まってる。が、その前に。一応は上官の前なのだし、背筋をピンと伸ばしてもう少しピシッとできないのかな~? とか、思うんだが」 | ||
エーリヒ:「イヤ」 | ||
司令官:「あ。そう」 | ||
エーリヒ:「それよりあたし、お腹減ってるんだけど? ゆっくり朝ゴハン食べてたのにいきなり司令が呼びだしたせいで、ろくに食べられなかったんだから。もう、最低だよっ」 | ||
司令官:「ゆっくり朝ゴハン……て、もう午前の十時を余裕で過ぎているんだけどね、エーリヒ君……」 | ||
エーリヒ:「それが何? ゴハンはゆっくり時間をかけて食べないと消化に悪いでしょ?」 | ||
司令官:「それはそうだが……」 | ||
司令官は頭を抱えた。 | ||
司令官:「まあ、それはともかく。キミにはこれからスペインまで行ってもらいたい」 | ||
エーリヒ:「イヤ」 | ||
きっぱり。 | ||
司令官:「いや?」 | ||
司令官は驚きの目でエーリヒを見た。もちろん軍内では命令拒否などあってはならないことだ。 | ||
司令官:「食後の運動は消化にいいぞ?」 | ||
エーリヒ:「でもスペインって、遠いよね?」 | ||
司令官:「まあ、近くはないな」 | ||
エーリヒ:「そんな遠い所まで飛んでいったら、もっとお腹すいちゃうじゃないっ。だから絶対、イヤ」 | ||
司令官:「そういう問題ではなくてだな」 | ||
エーリヒ:「だいたいどうしてあたしなの? 手が空いている鋼の乙女なら、他にもいるじゃない」 | ||
司令官:「それはそうだが、しかし総合的な機体性能を考慮すれば、キミが一番適任なのだよ」 | ||
エーリヒ:「そんなにオダてたって、絶対イヤ。イヤッたらイヤッ」 | ||
エーリヒはすねたように顔を横にそらし、聞く耳もたない……といった様子だ。 | ||
司令官:「だ、だが、スペインには闘牛があるぞっ。本場で観るナマ闘牛っ。闘牛士と猛牛の生死を賭けた魂のぶつかり合いだ! 迫力いっぱいで愉しいぞっ!」 | ||
エーリヒ:「はっ! あんな、赤い布見て興奮する牛の悲しい習性利用したタダの茶番に、どう興味を持てと?」 | ||
司令官:「ちゃ、茶番……?」 | ||
エーリヒ:「だいたい敵機と弾撃ち合いながら空で追いかけっこしたあと、地上でチマチマ人間と牛が追いかけっこするの観て、なにが愉しいかな? 司令って馬鹿ですか?」 | ||
司令官:「むぅっ。な、ならっ、パエリアはどうだっ!」 | ||
エーリヒ:「パッ、パエリアッ!?」 | ||
その言葉に、やる気なさげでどんよりしていたエーリヒの瞳が、いきなりキランと輝いた。 | ||
司令官:「そうだ! たっぷりの具と米をサフランで炊きあげたスペインの代表料理だっ! 美味いぞっ! 食べたくはないかっ!?」 | ||
エーリヒ:「ぅぅ、それは食べたいかも……でも、やっぱりスペインは遠いからなぁ……正直、戦うのも面倒だし……」 | ||
司令官:「ならばっ! 敵機を一機撃墜する毎にパエリア一人前はどうだ?」 | ||
エーリヒ:「ほっ、本当にっ!?」 | ||
エーリヒの瞳がさらにキラキラ、ランラン明るく輝いた。 | ||
司令官:「も、もちろんだっ。経費はすべて私にまわしてくれ給えっ」 | ||
司令官としては痛い出費だが、エーリヒのやる気を出させるためにはいたしかたない。 | ||
するとエーリヒは、直立不動でビシッと敬礼をキめた。 | ||
エーリヒ:「わかりました! よろこんでスペインへ行って参ります!」 | ||
かくてエーリヒは、スペインの大空を縦横に駆け抜けた。 | ||
エーリヒ:「うふふー! どんどんかかってきなさいー♪ パエリアのためーあたしの空腹を満たすためー♪」 | ||
謳うように踊るように飛翔し、エーリヒは連合軍の機体を容赦なく叩き落としてスコアを稼ぎまくった。 | ||
そしてその夜、駐屯基地近くにあるレストランでは、テーブルにあふれるくらいパエリアを注文しまくるエーリヒの姿があった。 | ||
エーリヒ:「うっはぁぁぁー♪ おいっしぃぃぃっ♪ さっきのシーフードパエリアも定番ぽくて最高だったけど、このバレンシア風もオメガ最高っ♪ ね、ね、これ、なんのお肉、使ってるのー?」 | ||
給仕:「はい。ウサギと鶏と、それからカタツムリです、セニョリータ」 | ||
エーリヒ:「カタツム……ま、いっか、美味しいから♪ さぁて、まだまだいくわよー、つぎはイカ墨入りのヤツ、もってきてー!」 | ||
こうしてエーリヒはスペインの大空を縦横無尽に駆け抜け、パエリアなスペインの夜を存分に満喫したのだった。 | ||
©Systemsoft beta, Inc.