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整備士たちの声が響き渡るここは、日本軍海軍基地の一角。 | ||
周囲にはベテラン整備士による怒号と鉄拳が飛び交っている中、その場に似つかわしくない少女が堂々と基地内を歩いていた。 | ||
本来ここは軍関係者以外は立ち入り禁止である。 | ||
そして少女の存在に気付いた整備士が少女に駆け寄った。 | ||
整備士:「こら! そこで何をしている!!」 | ||
整備士:「子供――ましてや女が入っていい場所ではない!!」 | ||
少女はそれを無視して進もうとするが、その態度が気に障ったのか整備士は少女に掴みかかろうとする。 | ||
しかし。 | ||
???:「私に触るな」 | ||
近づいた整備士の鼻先には鋭利な刃が突きつけられていた。 | ||
整備士:「ひ――」 | ||
???:「この主翼切り、連合軍の機体を斬るための刃だが、不埒な人間を斬ることもできる」 | ||
へなへなと床に座り込む整備士。 | ||
そこへ整備士達の責任者であろうか熟練の雰囲気を纏った整備士がやってきて、座り込んだ整備士を殴り、少女に頭を下げた。 | ||
整備長:「悪かったな、嬢ちゃん。こいつは新入りで、お前ことを知らなかったんだ」 | ||
???:「まあ別に構わないが―――司令室の場所は分かりますか?」 | ||
整備長:「ここをまっすぐ進んで突き当りを右に曲がれば司令室です」 | ||
???:「ありがとうございます」 | ||
そして何事もなかったかのように少女は踵を返すと、案内された方へ歩を進めていった。 | ||
若い整備士は、整備長に尋ねた。 | ||
整備士:「あの女はなんなんですか?」 | ||
整備長:「今回新たに造られた、日本軍虎の子の秘密兵器――鋼の乙女よ」 | ||
整備士:「あれが……」 | ||
若い整備士は、立ち去る少女の後姿を見やった。 | ||
???:「零式艦上戦闘機、出頭致しました」 | ||
???:「どうぞ~」 | ||
レ イ:「失礼します」 | ||
???:「ごめんなさいねぇ、急に呼び出しちゃって」 | ||
レ イ:「いえ、任務ですから」 | ||
初めて入室した司令室を見渡すと、そこは司令室とは名ばかりの質素な個室だった。 | ||
必要最低限のものは揃えられているものの、取り立てて目を引くものは、わが国の国旗である日章旗と、目の前にいる一風変わった女性。 | ||
その傍らには、男性が、なぜか口元を緩ませて椅子に座っていた。まじまじと見ていると、その男性が身につけている制服から、階級が高いのはわかる。 | ||
だが、なぜ口が半開きなのだろう。疑問に思うレイに、女性が話しかける。 | ||
???:「まあまあ、そう硬くならずに。あなたがレイちゃんね」 | ||
レ イ:「いきなりちゃん付けですか……」 | ||
目を覚まし、『活動』を始めてから日は浅いものの、それなりに人と知り合い、会話もしてきた。 | ||
だが、初対面の人間にいきなり「ちゃん」づけされたことはないので、レイはちょっと引いた。 | ||
???:「私可愛い女の子にはちゃん付けしちゃう性質なのよぅ」 | ||
この発言に、かなり引いた。女性の性格はともかくとして、柔和で整った顔立ち、長くつややかな黒髪は同じ女性でも見とれるほどだ。 | ||
その上、豊かに盛り上がった胸元と大きく張り出した腰周りは、残念ながらレイとは対照的で、多くの男性には実に魅力的に映るであろう事は明白だった。 | ||
レ イ:「あなたは同性しか愛せない方なんですか?」 | ||
???:「まぁ、失っ礼しちゃうわねぇ。ちゃんと殿方が好きよ、私。でも可愛い女の子も好きなのー」 | ||
レ イ:「やっぱり同性愛者……非生産的です」 | ||
???:「違うったら! んもぅ。レイちゃんってば頑固さんなんだから」 | ||
レ イ:「はぁ……」 | ||
???:「それはともかく、私の自己紹介がまだだったわね」 | ||
???:「私はあかぎ。一応位置的にはそこにいる人の副官って立場よ」 | ||
そうあかぎが言うと、司令官は我に帰ったように、口元を引き締め、ごほんと咳払いした。 | ||
司令官:「なにを隠そう、そう私が司令官だ。名前はきにするな。ただの司令官だ。今後私のことは司令官殿と呼ぶのだ」 | ||
何を隠そうもなにも、自己紹介されたばかりなのだが。 | ||
レイが思っていると、司令官はやおら立ち上がり、レイに握手を求めた。 | ||
なぜ握手を求められるのか不明だったが、相手は司令官。逆らってはいけないと思い、差し出された手をそっと握る。すると。 | ||
司令官:「むふふふふ」 | ||
と、司令官が怪しい笑みを浮かべた。 | ||
手も、握手というより、指の腹で手の甲を撫で回されている感じだ。非常に気持ちが悪い。レイはどうにかこうにかその手を引き抜くことに成功する。 | ||
レ イ:「わかりました、司令官殿」 | ||
敬礼するレイと、にこにこと笑っている赤城を見て、司令官は深くため息をついた。 | ||
なぜため息をつく必要があるのだろう。レイが思っていると。あかぎがにっこりと笑って言った。 | ||
あかぎ:「というわけで、これからよろしくね~。よろしくしてくれないと、先生泣いちゃうんだから」 | ||
どこに先生がいるのだろう? この場にはあかぎと自分しかいないはずなのに、とレイは思わずあたりを見回した。 | ||
あかぎ:「……っ、……っ」 | ||
ふと見ると、あかぎが必死に自分を指差して頷いている。 | ||
レ イ:「私はあなたに何かを教わった覚えはありませんが……」 | ||
あかぎ:「その場のノリよノリ」 | ||
レ イ:「はあ、そうですか」 | ||
この人の言動に振り回される必要はないか、とレイは思い、レイは口を開く。 | ||
レ イ:「それで、指令は何ですか?」 | ||
あかぎ:「あ、そうそう、指令はね~。ごくごく簡単よ。中国に行ってもらいたいの。中国に行ってくだチャイナ、みたいな~」 | ||
レ イ:「寒い冗談は止めてください。膝から力が抜けそうになります」 | ||
するとあかぎはいきなり頬がそげ、口を大きく開いて恐ろしい表情になる。 | ||
レ イ:「…………っ!!」 | ||
思わず構えるレイ。いくら親しげに接してくれているとはいえ、相手は上官だ。流石に言い過ぎたか、と多少の罰は覚悟した。だが… | ||
あかぎ:「寒い!? 私の冗談は寒いの!?」 | ||
赤城の独特なペースは変わらず、レイはそこが大事なのか、と苦笑しつつもこの破天荒な副官に興味を持ち始めていた。 | ||
レ イ:「…ええ、一気に氷点下に下がるほど」 | ||
あかぎ:「そんなぁ……」 | ||
あかぎはしゅんとうなだれたかと思えば、ぐわっと顔を上げて、宣言した。 | ||
あかぎ:「これからは寒くない冗談を言うように頑張るわ!!」 | ||
レ イ:「別に冗談を言う必要はないと思うのですが」 | ||
あかぎ:「駄目よ、駄目駄目。人間関係を円滑にするために、冗談は必要不可欠なの。あなたも覚えておきなさい、レイちゃん」 | ||
レ イ:「はぁ、そうですか。とにかく、私は中国へと向かいます」 | ||
あかぎ:「冗談もちゃんと覚えてきてね~。無事に帰ってこないと、お姉さん泣いちゃうんだから」 | ||
レ イ:「気が向けば、覚えておきましょう」 | ||
一言いいおいて、レイは司令室を後にした。 | ||
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